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 ロボット自動化システムのエンジニアリングとシミュレーション
 
ロボットメーション株式会社
加藤 洋輔
 
1. はじめに
 ロボット自動化システムをエンジニアリングする過程で,シミュレータの役割は,ロボットシステムのレイアウトの検討,作図,サイクルタイムの予測,干渉などをチェックするツールであり,ロボットシミュレータ上でロボット自動化システムが出来上がるものではない。最初に“ロボットの自動化システムの概念構想ありき”なのである。
 この自動化の構想を考えると,如何にしてロボット化するのか。「How to use」が問題であって,もしこれが簡単なことならば,今どき21世紀に,工場内に作業者は居ないはずである。しかし,ロボット普及のためには,この問題を避けて進むことはできない。ロボット自動化システムのエンジニアリングの必要性を痛感する次第である。
 
2−1. ロボット自動化システムのエンジニアリング
 自動化には様々な自動機がある。多品種少量生産の自動化には,やはりロボットが有効のようである。幸いわが国には,これまた多品種のロボットが開発,市販されており,選択の幅は広い。
 作業の対象ワーク,作業動作から判断して,最適機構の最高機種を選択し,必要最小限のロボットシステムを構築すべきである。
 以下,ロボットに限定した自動化システムのエンジニアリングの手法を順を追って説明する。
 
2−2. 自動化システムの概念構想を創る
 前項にも述べたが,この構想を創るに当って,簡単なシステム,前例のあるシステムならば問題はない。しかし今までにない自動化システムの場合,何らかのヒント,ひらめき,発想が必要とされ,積み重ねや,残業すれば出来るという類のものではない。
 先ず,自動化の学問がない場合。長年にわたる生産技術の蓄積と,豊富な自動化の見開と経験で,ひらめきを導き出すのが常である。それには縦のものを横から,上下から見て,水平,垂直思考を繰り返す。
 発想の乏しい時は,やはり,もう一度現場作業をじっくり観察し,直接作業者にも話を聞きヒントを掴むのである。また,出来ることならば自分でその作業を実際にやってみることである。これは大事なことである。何故ならば,作業者の苦痛を理解することができ,自動化をやらねばならない義務感が生じ,それがシステム構築の原動力となるからである。
 ロボットをどう使うか,エンドエフェクタをどうするか,周辺装置をどうするかなどの大要をまとめて,構想図を描いてみる。ラインとして前後工程との違和感はないか,また,整合性はあるのかも,あらかじめ考慮に入れておく。
 
2−3. 最適ロボットの選択
 エンジニアリングである以上,現実に設備として製作し。設置し,稼動するシステムの構築である。したがって現実の,市販の,汎用形ロボットをスペック・インするのが必然である。デザインや単なる設計とはそこが違う点であり,ここに,こんなロボットがあれば,自動化は可能であるというのでは構築に時間が掛りすぎる。
 最適ロボットの選択には次の要素が満たされているかを考慮すべきである。
(a) 直交形か,多関節形か,それは水平または垂直か,自由度は最低いくつ必要か。
(b) 動作領域
 平面,垂直面から見て,作業のポイントがすべて動作領域に入っているかを確認する。クリチカルなポイント,領域ギリギリのところは避け,少し余裕を持たせたい。
 あるいはハンドを工夫してもよい。また,走行装置にロボットを搭載して動作領域を極端に広げることも可能である。
 また,設置姿勢も,架台上に乗せたり,天吊,壁掛けなど可能なロボットもある。ロボットの稼動範囲も最近市販されるものは,前後,上下共に広くなり,それなりに使い易くなっている。
(c) 可搬質量は納っているか,これを検討するためには前もって,ハンドを構想し,その質量を推定しておく必要がある。
(d) 許容モーメント
 ハンドの先の方で物を持つとか,手首にトルクが掛る場合は,ロボットの許容モーメントを検討し,また動作速度の速い場合は,イナーシャも検討する。
(e) 動作速度
 短いタクトタイムの生産では,少数点以下の秒数が問題となる。
(f) 位置繰り返し精度
 精密はめ合い,精度の高い作業の場合は,この数字の良いものを選ぶべきである。
(g) その他
 作業によってはI/O点数,記憶容量のチェックをする。またオプション機能も何があるかを知っておくとよい。市販のロボットから以上の点を満足させるロボットを選択する。
 
2−4. エンド・エフェクタと周機器の設計
 これらが残念ながら,ほとんど設計,製作となるハンドリング用の把持ハンドにしても,ワークによって,つまむ,はさむ,にぎる,吸着(真空,電磁),すくう,ひっかける,つきさす,乗せる,などのやり方がある。
 バリ取り,磨き,面取りに至っては,あらゆる回転工具と砥石,超硬工具,研磨紙・布などの知識データベースをもっておく必要がある。
また,最近はATC,RCC,ハンド保護装置などハンド廻りの汎用商品も品揃えが豊富になった。
 さて,周辺機器であるが,第2項で述べた原則に従って,ワークストッカ,バッファ,搬送装置,位置決め,治具,クランプ,姿勢変換装置,部品供給方式などを設計する.これに多品種共用化となれば,さらに装置としては複雑となり,共用治具の開発に時間が必要となる。
 その他,環境対策としての排気装置,集塵装置もシステム設計の中に入る。
 
2−5. システムのレイアウトと安全柵
 さて,ロボットが決定され,ハンド,周辺機器の形が整えば,次は,これらの機器をどのように配置するかである。平面,立面からロボットの動作領域図をベースに配置する(図1)。注意点としては,次の点があげられる。
(a) ロボットの作業フローから考えて,動作に無駄のないよう,最短距離を走らせる。
(b) ロボットのアームと機器との干渉。複数ロボットの場合,ソフトで解決はできるが,アームの干渉に注意する。
(c) 垂直多関節形ロボットは,立面の配置に注意する。
(d) メンテナンスを考慮するが,最少の面積に納める。 
 機器の配置が決定したならば,ロボットの安全柵を設計する.これも最近の傾向として小さく,狭く設ける要望が多い。もちろん,設置側の環境(柱,天井高,梁,既設設備など)を考慮して配置する。
図1 動作領域図例
 
2−6. センサの選択と制御系の設計
 ワークあるいは部品の形状に基準線,基準面がなく,位置決めの不可能なとき,あるいは位置決めを省略したい時に画像処理,ビジョンセンサを使用する。
 また,バリ取り,磨き,面取り作業といった手加減の必要な作業の時に,フローティング装置の他に力覚センサを使用する。
 その他にも作業の進行に伴って様々なセンサが使用される。自動化システムであるが故に,より安全で,正確な装置に仕立て上げる必要がある。しかし,安全にあまりにも神経を使ってセンサのお化けのような装置も,制御は複雑となり,時間は遅くなり,チョコ停の原因ともなる。必要最小限がベストである。
 
2−7. サイクルタイムと生産性
 システムのフローチャートを作成し, ロボットの動作タイムを推定する.これに基づいて生産システムとしてのサイクルタイムを予測する。
 推定の方法としては,従来までは計算したり,実機を使用したりで大変であったが,シミュレータの出現でこれは極めて楽になった。
 サイクルタイムがユーザ側との希望に折り合わず,システム全体の見直し作業も当然ある。自動化したために生産性が落ちることは許されない。
 
2−8. システムの概算価格と経済性評価
 いくら良いシステムであっても,経済性を無視した投資では採用される筈がない.償却年数を何年にするかは,受け入れ側のポリシーによるが,一番苦労するのはパートタイマ1直制の自動化である。
 
2−9. 品質効果と人間性の回復
 ロボット化した際の最大の効果は省力化であるが,さらに大きい効果は品質の安定および向上である。また3K作業からの解放も大きな福音である。
 以上,ロボット自動化システムのエンジニアリングについて概要を述べたが,システムの採用が決定してから詳細な設計に入る。また採用の前に実証実験の過程を経るものもあり,ひとつの作業の自動化を実現させるためには,供給側,受け入れ側共に並々ならぬ努力と時間が必要である。
 
3. ロボットエンジニアリングとシミュレータ
 数年前までは,ロボットシステムのレイアウトを製作するためには手作業に頼っていた。その後,CADが出現しコンピュータ上で実現できるようになり,ここにきてロボットシミュレータが普及し始めた。ワークステーションを必要とするものから,パソコンで稼働するソフトが開発され,「WORKSPACE 3+」の商品名で丸紅ハイテックより発売されている。
 ロボットシミュレータの役割は,
(a) ロボットシステムのエンジニアリングとサイクルタイムの抽出。
(b) ロボットのオフラインティーチングのツールとして使用する。
 この2つの状態の内,これからは現場サイドのロボットのティーチング作業の簡易化を受け持つツールとして期待されている。
 以上,ロボットを駆使して自動化生産ラインを構築するためのエンジニアリングの手法とシミュレータについて簡単ではあるが解説した。
 
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